解糖閾値
有酸素運動による脂肪のエネルギーは、即効性が弱く、短時間に、大量のエネルギーを供給するには向いていない。そのため一定の運動を超えると、次第にエネルギーが不足しだす。

左図は、有酸素運動の限界を超えてしまったグラフである。すると、このままではエネルギーが不足してしまう為、あらかじめ体に蓄えておいた、グリコーゲンという糖質を使って、不足分を補うようになる。このグリコーゲンの分解は酸素を必要としないため、「無酸素運動」と呼ばれる。主に呼吸が早くなっている運動領域では、脂質に加え、この糖質が使われる。

一般に「無酸素」という言葉から、酸素が必要ない運動のように誤解されがちであるが、有酸素+無酸素(不足分の補い)である事に注意が必要である。実際に運動すれば分かるが、無酸素運動閾の方が、呼吸はより激しく、苦しい(酸素不足を起しているため)。

 LTポイント

有酸素の限界をATと称するが、同様に、この解糖閾にも、これ以上負荷を上げると、次第に持久仕切れなくなる限界があり、これを「LTポイント」と称する。

解糖は、「グリコーゲン」を分解してエネルギーにするが、この分解したエネルギーを実際に取り込んで使用する力は、分解する力より大きく劣る。この力はトレーニングによって強化する事が出来、取り込む力が強ければ、それだけ強い運動を連続出来る=持久力が向上する事を表す。

上の2つのグラフは、全く同じ運動であるが、左のグラフは、LTポイントが「3.5」であり、70秒を過ぎた辺りからこの限界を超えている。

一方で右のグラフは、解糖能力が向上し、LTポイントが「4」に引き上げられている。そのため、エネルギー切れを起す事無く、連続して運動し続ける事が出来る。

解糖閾の強化とは、この糖質を素早くエネルギーとして利用する力を高める事でLTポイントを引き上げ、より高い運動をしてもエネルギーを利用できる力を強化する事である。

なお解糖閾値の能力は、グラフのように、LTポイント手前付近での連続運動を行なう事によって、積極的な強化が可能である。

この点はATと似通ってる。レベル3の上限と、レベル4の上限に、それぞれ積極的な持久力強化ポイントがあると考えると覚え易い。

ただし、LTポイントは「グリコーゲン」を大量に消費する為、ATポイントと違い、グリコーゲンが枯渇してしまうと、それ以上トレーニングを続ける事が出来ない、トレーニング時間に限りがある点が異なる。

ポイント!
・解糖閾値は糖質をエネルギーにする。糖質は即効性が高い。
・糖質を分解してエネルギーにする力を強化する。
・糖質は保持できる量に限りがあり、枯渇し易い。

関連項目
⇒ステディステートインターバル
⇒ディスタンス・トライアル
 LTポイントの測定方法

LTポイントは、トレーニングによって上下する為、定期的な測定が有効である。また、最大心拍などを参考にした、推定LTポイントは、特にトレーニングを重ねた後は確実に向上し、ほぼ当てはまらない為、測定が必要である。

LTポイントの測定方法は科学的名測定法と、経験的な測定法がある。

◆科学的測定法
ATポイントの測定方法に似るが、やはり2分ごとに速度を1kmずつ上げて行き、その際の心拍数を測定する。それを持続できる限界まで速度を上げて実施する。速度でなく、出力でも測定可能である。5wずつ上げるなどすると良い。

次に、縦軸に速度、横軸に心拍数を引いたグラフを作り、そこにそれぞれの速度での心拍数を記入していく。
するとグラフに記入した点が、比較的ゆっくり上がって行く線と、比較的急上昇していく線の2本で結ぶ事ができる。この両方の線が交差した地点が、LTポイントである。
LTポイントを越えると、体がエネルギー不足に陥る為、心拍数が劇的に上昇しだす。それを測定したものである。

このグラフから、LTポイントとなる心拍数を知る事で、積極的なLTポイントの向上に利用できる負荷が理解できる。また、速度(または出力)がどのくらいになるとLTポイントに達するかも分かるため、自分のスピードアップも確認出来る。

◆経験的測定法
LTポイントでのトレーニング中に、あるスピードや心拍数で走ると、心拍数がどんどん上がってしまったり、呼吸が更に早くなってしまったり、次第に持久できなくなる、といった経験をするようになる。このような場合、スピードの出しすぎと判断し、少しずつ負荷を落とし、連続で運動可能な上限を探るようになるが、これがおよそLTポイントである。この経験的測定法は、日々変化するLTポイントを、実際の走行によって確認し、修正していく事であり、頻繁に用いられる。
科学的測定法によってLTポイントを測定した後、日々の練習で、この数値を目安に負荷を前後させ、実際のLTポイントを探る事になる。

 LTポイントを超えた運動

脂質でもエネルギーが足りない場合、糖質を追加してエネルギーを作り出す事は前述したが、下のグラフのように、糖質を利用する力を上回る、更に強い運動をした場合、ついにエネルギーの供給が追いつかなくなり、体はエネルギーを失って動けなくなる。

上記グラフは、解糖閾値をも越え、運動の強さがエネルギーの供給力を上回ってしまっている状態を表す。最初は力が出るが、その内エネルギーが不足し、いよいよ足が動かなくなって、お休み状態となる。
エネルギー不足によって動けなくなった場合、一時的に運動を弱くするなどしてエネルギーを取り戻すと、再び動けるようになる。

このエネルギーは、負荷を上げれば挙げるほど、たちまちエネルギーが不足して、短時間で動けなくなる。もっとも高い負荷で走ると、長くても30秒とされる。
一方で、この負荷を少し抑えれば、すぐにはエネルギーが不足しないため、運動時間が長くなるという特性がある。

このLTを超えた運動は、主にタイムトライアルや、ゴールスプリントなどで重要になってくる。

例えば1kmを走る場合、2時間も持久出来るような力で走る必要はなく、LTを越える(エネルギーが不足する)高いパワーで走り、足が動かなくなる前に1km走りきってしまえばよいのである 。
つまり、距離が短いと、その分パワーを増やして短時間に爆発的な力を出し、逆に距離が延びると、パワーを幾分抑えて、走り切るのに必要なペースを維持する事になる。

LTを超えたこれら運動は、トレーニングの際にも高い有効性がある。
強い負荷に体を適応させる反応が、持久力の向上である事は前述したが、つまりこのLTポイントを超えた運動は、積極的に高い負荷を再現する事が出来る。

特に心拍数が高くなる為、心筋拡張によって心拍数を低くする反応や、強烈な酸欠と激しい呼吸による酸素摂取能力の強化、そして、エネルギー不足に対する、速やかなエネルギーの回復強化といった反応(適応)がみられる。

長距離志向の場合、距離ばかり意識し、短距離を全力で走る練習はお門違いと考えがちであるが、フルパワーの短距離練習が、このような理由からも必要である。

関連項目
⇒心肺パワー・インターバル
⇒ディセンディング・インターバル
⇒リピータビリティ・インターバル

 解糖閾の負荷の表し方

難解になる為概要だけ記すが、LTポイントを超えると、グリコーゲンを消費する力より、供給する量が上回ってしまい、次第に余ってしまう。これを一時的に「乳酸」に変換して貯蔵し、後で再び分解してエネルギーとする(主に心筋で消費される)。
そのため、運動負荷が高いほど、分解しきれないエネルギー=「乳酸」が多くなるため、これを基準に、LTでの運動負荷を表現する。LT2とは、乳酸が2molの運動負荷であり、陸上の100m走では10mol以上に達する。高いほどパワーが強いが持久出来る時間が短くなると考えて良い。

この事から、乳酸が高いほど運動できない=疲労物質かのように解釈された非科学的な時代もあったが、今日では、乳酸=エネルギーであり、近年は疲労を低下させる作用がある事も判明している。

この乳酸を再びエネルギーに戻して利用するサイクルをコリ回路と言い、LTポイントを超えた(つまり乳酸があふれ出す)運動は、このコリ回路の強化に有効である。